劇薬「古舘伊知郎・喋らなければ負けだよ」

喋らなければ負けだよ
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古舘 伊知郎
青春出版社
売り上げランキング: 93850
おすすめ度の平均: 5.0

5 使えます!
5 言葉の使いわけ
5 面白くて為になる会話のテクニック。

この本はヤバい。悪い意味で。

これに書かれている技を完全に意識して使ったら、とてつもなく嫌なやつになれる気がする。

古館さん自身もそれをよーくわかっていて、前書きでこんなことを書いています。

繰り返すが、ここにあるのは理想でもキレイゴトでもない。ただひたすら実践でのノウハウのみにこだわった、まさに表層的で刹那的、花よりダンゴの”新・話し方教室”だ。

その分、効果のほども劇薬なみと自負しているが、ただし使用上の注意書きなど一切記載していない。テクニックを使用するうえでの「心」の問題に関しては、あくまでも貴方自身の領域だと思うからだ。

まずは、騙されたと思ってご服用ください。

まずは「自然に相手を喋らす技術」。

古館「江川さん、奥さんと初めてあったときの印象は?」
江川「昔のことだから忘れてしまいましたよ」
古館「どこに魅力を感じられたんですか?」
江川「魅力なんて別にないですよ、今も」

あの手この手で迫っても、決まってこんな調子ですり抜けられてしまう。そのときは、事前にスタッフが新聞や週刊誌などから『江川は夫婦ゲンカで奥さんを殴ったことがある』という情報を調べ上げていたから、何とか本人の口からその話を聞き出したかった。ところが万事この調子でのらりくらりと逃げられる。これでは視聴者も納得しないし僕も面子がたたない。そこで僕は苦しまぎれにこういってみた。

古館「江川さん、僕は女房とケンカして殴っちゃったら、その後のフォローはやはりSEXですよ」
江川「(警戒した表情で)あのですネ、いろいろなところで僕が女房を殴るなんて書かれてるけど、そういうことに関してどうのこうの言われても・・・・・・」
古館「僕にSEXとまで言わせておいて逃げる気ですか。女房はそういうことをTVで言うのを一番いやがるんです。そりゃそうです。あえて私はそれを言った。もう一度言います。ウチの場合は、ずばり、SEXです。」

こう言ったら、急に江川さんは笑いだし、うちとけた表情でこう語ってくれた。

「昔は時々殴りましたよ。でも女房は殴られ強いというか、一度オレンジをぶつけたことがあります」

この場合、人間の心理として、ウチはSEXではないと否定したいがために、無意識にその前段のケンカ話をスラスラ喋りはじめたという例だ。

このとき思ったのは、普通に質問しても相手が喋ってくれそうにないときは、自分のほうから真っ裸になって、情けない部分や恥ずかしい部分を先に出せばいいのではないかということだった。

「江川さん、女房のこと殴ったことありますよね?」なんてひとこともいっていないのに、空気を読ませて喋らせてしまう!これはやられます。これに抵抗しようと思うと自分が嫌なやつになりかねないです。捨て身は強力だということでしょうか。

次はお世辞の言い方。

(お仕事とはいえ、あなたも大変ね。そこまでして私を乗っけたいの?どーせ、本心じゃないんでしょう)

と思われてしまうこともある。確かにエンターテインメントのために無理やりヨイショしてるケースもあるだけに、最初にこちらの心理を見透かされるとあとあとやりづらくなってしまう。

そこで僕は苦労の末、やっと効果的な方法を見つけることができた。それは、ヨイショを言う前に

「あなたがここにいるから言うんじゃないんです」
「本人を目の前にしていうのもなんですが」
「今、こうして会ってるから言うんじゃないんです、本当に・・・・・・」
と、クドクド注釈をつけること。するとゲストの反応が違ってくるのだ。

ヨイショの内容は何ら変わらないのに、こういう一言を添えるだけでそれまでガードの固かったゲストは(まあ、うれしい)と感激してくれる。少しひねくれた人でも、(何よそれ、本気で言ってるの?)と一瞬心を開いて好奇心を示したり、あるいは(毎週いろんな人にそのセリフ言ってるのかな?変なホストね)と笑ってくれる。いずれにしても、ゲストは乗って積極的になってくれる。

確かに、そんなふうに言われてグラりと来ないわけがないです...。恐ろしい。

喫茶店などでバンバン話が盛り上がっあと。最後のつぶやきは相手に言うのでなく独り言のようにボソボソ声で、
「あー、今日はホント楽しかった」
あるいは
「あっという間に時間が過ぎちゃったな」
とか言ってみるのも、ひとつの前向きな捨てゼリフになる。

印象のよい捨てゼリフですね。

早速着ていたGジャンの襟元につけようとしたら、それまでベラベラ喋っていた中嶋さんがスッと手を出して、無言で僕の手を払いのけバッジをつけてくれた。

意表を突かれたボクはちょっと照れ臭い気分になり、
「イヤー、ありがとうございます」と礼を言ってまたベラベラ喋りはじめた。

すると、中嶋さんはまたひゅっと手を伸ばし、ボクの襟元のバッジの向きを直す。

その七秒間ほどの動作の間に(この人は本当に繊細でナイーブな人なんだ。こんな細かいことまで気にして意外に女性的な面もあるんだなー)と、いろんなことを感じていたら、中嶋さんはさらに、今度は三秒間くらいで再びチョンチョンとバッジを直して、じーっと位置を見てる。その表情を見たときに、彼の性格の一端が読めたような気がした。

やっぱりおしゃべり野郎は無言の動作にはかなわない。それまで普通に話をしていて突然フッと沈黙して無言の動作を挟みこみ、また何事もなかったかのように話に戻っていく中嶋さんの仕草は、本当に新鮮で魅力的に見えた。こういうことは、意外と日常の中にもよくあるんじゃないか。

男でも女でも、白熱して喋っていて、突然隣の人が襟元を直してくれたり、あるいは肩に髪の毛が落ちてるのを取ってくれたり・・・・・・。

無言の力。あるいは緩急の力でしょうか。

基本的に無口な人というのは、饒舌な人に対してへきえきしていることが多い。普段から他人のおしゃべりばかり聞かされてるから、いい加減ゲップが出てる状態なのだ。そんな相手に、機関銃のように言葉を乱発してもダメ。

むしろ、武器を懐にしまうようなつもりでピタッとおしゃべりをやめて、自分も同じように口を閉ざす。質問を中断し、ボソボソとつぶやくだけにする。

「いやァ、無口ですねェ。困っちゃいましたね」と間をあけて、そのあとは一切自分から喋らない。五秒、十秒とおし黙ってみる。

すると不思議なもので無口だったはずの相手が、今度はあわててその間を埋めようと逆にフォローしてくる。

「そんなに困んないで下さいよ、古館さん。私は無口だけど、一所懸命がんばりますから」という具合に。

北風と太陽のような話。

以前、渡辺文雄さんがレポーターをやってる番組で、料理を食べた直後に渡辺さんが、一瞬しかめっ面をしたことがあった。ボクはTVを見ていて(あっ、きっとまずいんだな)と推測し、(こういうとき渡辺文雄は何て答えるんだろう?)とワクワクして見守った。「まずい」とは死んでも言えないし、かといって「うまい」とは食通としては言いにくいものがあるだろう。毎週いろいろな料理をあの手この手の褒め言葉を駆使して少しでも違ったニュアンスや表現を出そうと苦心してきた名レポーターともなると、あからさまな見え見えのヨイショ言葉などは、プライドから言ってもできれば避けたいと思ってるはず。

そういった期待をふくらませて画面に見入っていると、ものの見事な一言を渡辺さんはのたまった。

「いやー、好きな人にはたまらんでしょうなあ」

比類無き逃げの一手。一般論へのすり替え。

...と、ここまで引用したところでだんだん嫌になってきましたw 自然に使ってればよいものを技術として認識してしまったがために、使えなくなる感じです。紹介しようと思った箇所はまだまだ沢山あるのですが、これ以上引用を続けると自分を見失ってしまいそうなので、このあたりでやめます。

劇薬古館伊知郎。処方は自己責任でどうぞ...。

喋らなければ負けだよ
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5 面白くて為になる会話のテクニック。

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コメント / トラックバック 1 件

  1. 古館さんスゴイですね。
    尊敬します!